〜シャンパンの泡が魅せる一夜の恋の夢〜

 

オペレッタ「こうもり」

作曲家:ヨハン・シュトラウス2世
初演:1874年 オーストリア アン・デア・ウィーン劇場
言語:ドイツ語(原語はドイツ語だが、上演場所によって変わる場合有り。詳しくは後述)




 

オペラよりも気軽に楽しめるもの、それがオペレッタであり、オペレッタの作品のほとんどが喜劇になっています。この「こうもり」も典型的な喜劇作品になっていて、オペレッタの代表作品として名高いウィンナ・オペレッタになっています。現在も、ウィーン国立歌劇場をはじめヨーロッパの多くの劇場で、特に大晦日に上演されるのが定番となっている作品です。

またオペレッタはその気軽さ故に、上演される際は上演される国での言語で上演されるのが好ましい、と言われています。ですので、ドイツ語圏で上演する場合はそのまま原語のドイツ語で、日本で上演する場合は日本語で、といった形での上演が多いですね。というのも、オペラは原則として地の台詞がなく、全てに音が付いていますが、オペレッタは必ず地の台詞があります。イメージとしてはミュージカルのような感じですね。

特に日本は各団体独特の訳詞での上演が多いように思います。また、台詞なども演出家などによってオリジナルの台詞になる場合も多いので、そのあたりの違いを楽しむのもオペレッタの良さの1つです。

 

この「こうもり」は非常に愉快な喜劇なのですが、登場人物が多いのと、主要な登場人物のほとんどが変装して名前も一時的に変えてしまうのが慣れないと見ていて困惑してしまう作品でもあります。今回も簡単なあらすじと細かいあらすじ、その2つに分けていますので、登場人物がごっちゃになってしまう方はまずはすぐ下の簡単なあらすじだけでも良いと思います。

 

役人を殴ってしまい5日の間の禁固刑を言い渡された裕福なアイゼンシュタイン、その妻ロザリンデ。今夜、華やかな舞踏会が開かれることを知った彼らはそれぞれの企みを秘めながら身分を隠して舞踏会へ向かいます。そこには変装した小間使いのアデーレの姿も。

「今夜はこうもりの復讐をお見せしましょう。」

こう宣言するファルケ博士。彼は「こうもり博士」という不本意なあだ名を昔付けられていました。というのも過去に仮面舞踏会にアイゼンシュタインと共に行ったファルケはしこたま酔っぱらっていて、道端で寝てしまうとそのままアイゼンシュタインに置いていかれてしまいました。そして、こうもりの姿の仮装のまま寝ているファルケを子供達が見て、「こうもり博士」とあだ名を付けられてしまったのです。

 

さて、今夜彼が司会をつとめる舞踏会では、参加者はみんな新しい恋に夢中になります。当然変装したアイゼンシュタインも女性を口説きますが、なんとそれは変装した妻ロザリンデ。彼女は夫の情けない行為の証拠をつかみ取ります。

舞踏会が終わり朝になると、アイゼンシュタインは慌てて刑務所へ。しっかりと短い刑期を終えようとすると、既にアイゼンシュタインは逮捕されたとのこと。どういうことか真相を確かめようとすると、そこにはアイゼンシュタインに変装したロザリンデの元恋人アルフレードの姿が。実はロザリンデはアイゼンシュタインがいない間に元彼と恋を楽しもうとしていたのです。

ロザリンデを問いつめるアイゼンシュタインですが、今度は逆に妻が夫の昨夜の舞踏会での情事の前触れを問いつめます。そこへファルケが現れ、「これが私の仕組んだこうもりの復讐だ」と話します。ロザリンデは「全てはシャンパンの泡のせいね。」と話し、皆でシャンパンを称えて幕がおります。

 

変装したり、タイトルの「こうもり」の意味を理解するにはしっかり設定を知らないといけなかったりで私も初めて見た時は、楽しいけど話がよくわからんなーと思ってました。とはいえ、気軽に楽しむのがオペレッタですので、音楽に歌に歌手のコミカルな演技に、難しいことを考えずに楽しめるのもオペレッタ、さらには「こうもり」の良いところです。

 

【主な登場人物】

アイゼンシュタイン男爵(テノールorバリトン):裕福な銀行家※変装中はルナール侯爵

ロザリンデ(ソプラノ):アイゼンシュタインの妻※変装中はハンガリーの伯爵夫人

フランク(バリトンorバス):刑務所長※変装中は騎士シャグラン

アデーレ(アデーレ):アイゼンシュタイン家の小間使い。※変装中は女優オルガ

アルフレードテ(テノール): 声楽教師。ロザリンデの元恋人

オルロフスキー公爵(メゾソプラノ):ロシア貴族

ファルケ博士(バリトン):アイゼンシュタインの友人

イダ(ソプラノ):アデーレの姉

ブリント(バリトン):アイゼンシュタインの弁護士

フロッシュ:(俳優):刑務所の看守、台詞のみで歌わないことがほとんど。




 

あらすじ

第一幕

ザルツブルク、アイゼンシュタイン男爵の屋敷。庭からアルフレードが歌うセレナータが聞こえる。アイゼンシュタインがいない間に、彼の妻ロザリンデとかつて愛し合っていたアルフレードがロザリンデに愛のメッセージを送っているのだ。そこへ小間使いのアデーレが現れ、彼女の妹イダから誘われたオルロフスキー公爵の舞踏会の想いを歌い、ある案を思いつくと奥へと去ります。

すると、アルフレードが屋敷のなかに訪れロザリンデと今夜の密会の約束を交わします。そこへアデーレが現れ、親戚が重病なので暇をくれないかとロザリンデに懇願、そうこうしている内に当のロザリンデの夫アイゼンシュタインは、禁固刑が伸びたことに腹を立てながら現れます。彼は役人を殴った罪で5日間の禁固刑を言い渡されていたのですが、弁護士ブリントのミスでそれが8日にのびたのです。

屋敷にオルロフスキー公爵の舞踏会で司会をつとめるという、公証人ファルケ博士がアイゼンシュタインを舞踏会に誘うために訪れます。アイゼンシュタインはその誘いにのり、妻には刑務所に行くと嘘をつくことにしますが、燕尾服を用意していたので、ロザリンデも不審に思います。ロザリンデはアデーレに休暇をあたえ、夫、妻、小間使いの3人は偽りの悲しみを歌う三重唱を歌います。

アイゼンシュタインとアデーレが去ると、アルフレードとの甘い時間をロザリンデは楽しもうとしますが、刑務所長フランクが訪れアルフレードをアイゼンシュタインと勘違いし、彼を連行し、一幕が終わります。

 

第二幕

オルロフスキー公爵の舞踏会。司会のファルケが「今夜は『こうもりの復讐』という喜劇をお見せしましょう。」と述べ、舞踏会が開かれます。

彼は「こうもり博士」という不本意なあだ名を昔付けられていました。というのも過去に仮面舞踏会にアイゼンシュタインと共に 行ったファルケはしこたま酔っぱらっていて、道端で寝てしまうとそのままアイゼンシュタインに置いていかれてしまいました。そして、こうもりの姿の仮装のまま寝ているファルケを子供達が見て、「こうもり博士」とあだ名を付けられてしまったのです。

そこへ、ルナール侯爵に変装したアイゼンシュタイン、女優のオルガに変装したアデーレが顔を合わせてしまいます。オルガに見覚えがあると言うルナールですが、オルガはその疑惑を華麗にかわします※1

さらに騎士シャグランに変装した刑務所長フランク、仮面を付けて素顔を隠したロザリンデらも現れます。仮面を付けたロザリンデを見たアイゼンシュタインは自分の妻とも知らずに彼女を口説きます。これを見たロザリンデは浮気の証拠に、彼の口説きをかわしながらも彼の時計をもらうことに成功します。

舞踏会も終わりに近づくと、有名な「シャンパンの歌」※2が歌われ、宴の盛り上がりは最高潮に。やがて朝を告げる鐘が聞こえると、全く別の目的で捕まる側のアイゼンシュタインと捕まえる側のフランクが刑務所へ慌てて向かい、二幕が終わります。

 

第三幕

刑務所。看守フロッシュも例外なく酔っぱらっています。アイゼンシュタインとして捕らえられたアルフレードは独房からもセレナータを歌い離れ離れになってしまたロザリンデの思い出に酔っています。さらにそこへ舞踏会から帰ってきたフランクも酔っぱらいながら帰ってきます。彼は、本当に女優に憧れていたアデーレに「本当は小間使いなんだけど、女優になりたいからパトロンになって」と誘惑される始末。

さらにもう1人酔っぱらったアイゼンシュタインも訪れ、フランクと顔を合わせるとお互いの本当の正体を告白。だが、刑務所長のフランクは不思議なことに気付く。アイゼンシュタインは昨晩のうちに逮捕して独房にいるはずだ、と。アイゼンシュタインは何が起きているのか確かめるために弁護士フランクとして話を聞く事に。

アルフレード、ロザリンデ達は、なぜ昨晩アルフレードが屋敷にいたかを話しますが、それを聞いたアイゼンシュタインは激怒。するとロザリンデは舞踏会でアイゼンシュタインが変装したルナール侯爵から手に入れた時計を見せつけます。ロザリンデが浮気しようとしていた証拠もあれば、この時計もアイゼンシュタインが浮気しようとしていた証拠。

アイゼンシュタインが何も言えなくなると、ファルケ博士が登場。舞踏会にいた人達もかけつけ、ファルケ博士は「これこそ『こうもりの復讐』全ては私が仕組んだことです。」と話す。これを見ていたオルロフスキー公爵はアデーレのパトロンを申し出、アイゼンシュタインはロザリンデに許しを乞います。ロザリンデは「全てはシャンパンの泡のせいね。」と話し、最後は全員で再び「シャンパンの歌」を歌い、大団円のうちに幕がおりる。




 

解説

オペレッタはフランス生まれウィーン育ち、と言えるオペラの派生形の1つで、ウィーンで主に作られた作品をウィンナ・オペレッタとも言います。「こうもり」はそんなウィンナ・オペレッタ、強いてはオペレッタの中でも上演回数の非常に多い作品です。また、作曲者のヨハン・シュトラウス2世も「オペレッタの王様」とも呼ばれる人物でウィーンでの彼の人気は根強く、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートは彼の曲を中心にプログラムが作成されます。

喜劇的な、アイゼンシュタインのような金持ちだけど少しまぬけな中年が、アデーレやロザリンデのような賢い女性の策略に騙されるという面があり、その一方でアデーレもロザリンデも少しおっちょこちょいな部分も含まれており、喜劇としても完成されていながら、音楽的にも「ワルツ王」と呼ばれたシュトラウス2世の美しく軽快なメロディーが彩られています。

 

日本でも上演の機会は多く、原語のドイツ語である場合や日本語の訳詞での上演どちらもあります。ドイツ語であれば本来の音の響きを楽しめるでしょうし、日本語訳詞であればミュージカルや演劇のような喜劇として気軽に楽しむことが出来るでしょう。このように様々な楽しみ方が出来るのがオペレッタの良いところですね。

また、下記に紹介する曲は、コンサートなどでも単独でよく演奏される曲なので知っておくとさらに楽しめます。

有名曲紹介

※1 Mein Herr Marquis(侯爵、あなたのような人は)

二幕、舞踏会で女優オルガに変装したアデーレが、同じく変装したアイゼンシュタインに正体がバレそうになった時に、それをごまかす歌です。

「こんなに美しい私が小間使いなわけがないでしょう。そんなことをおっしゃるなんて、とても愉快なことね」と周りの人と一緒になって、上品に、コケティッシュに笑いながら歌います。

設定ではアデーレは女優を目指しているので、小間使いながらもこんなに上品でウィットにとんだメロディーを与えられているのはそんな理由があるのでしょう。

 

※2 Im Feuerstrom der Reben(ワインの燃える流れに)※シャンパンの歌

「こうもり」を代表する1曲、それがこの「シャンパンの歌」です。

「酒の王を称えよう、シャンパンは苦しみを洗い流すのだ」と舞踏会でも、大団円で終わる最後にも歌われる曲になっています。何も考えずに、軽快なメロディーを味わえるこの曲はまさにオペレッタというものの本質を表しているかのようです。

コンサートのアンコールなどでもよく歌われる曲で、過去の日本におけるニューイヤーオペラコンサートでも演奏されましたね。