オペラの発声法は、一般的に「ベル・カント」と言われており、イタリア語で、「美しい歌声」の意味です。

 

響きの集大成ベル・カント

この発声法は、マイクなど存在しなかった近世の頃から、歌劇場の全ての観客に歌声を響かせるために存在していました。とはいえ、恐らく現代と全く同じもの、というわけではなかったようです。

正直なところ、現代でもこの発声法には、同じベル・カントでも様々な門派のようなものが存在しておりその門派ごとに、同じ単語でも解釈が違ったりするため、ここではあくまで、一般的な概念のみ、お話したいと思います。

 

さて、この発声は音の振動を重視します。私たちも話すときの声は、音の振動によるものですがベル・カントでは、この振動を最大限に利用し歌劇場の全ての観客へ歌声を届けます。その響かせ方は、声帯や頭部からだけでなく、全身を使う必要があります。まさにオペラ歌手にとっては、自らの身体が楽器なのです。

 

この発声法はイタリアで生まれたとも言う事ができ、実際にベル・カントを習うときはイタリア語の母音の発音を身につけることが必須になります。

というのも、イタリア語は非常に響きやすい言語であり「歌うための言語」と言われることがあります。イタリア人が陽気で歌が好きな理由も、偶然ではないのでしょう。

 

決して衰えない歌声

このベル・カント、ここまでお話するとかなり負担が大きい歌い方に見えるかもしれません。実際、オペラを主役級の役で全幕歌うと、かなり体力を消耗します。ですが喉への負担に関しては、休息こそ必要なものの、他の歌い方よりも喉を壊しにくいものなのです。

確かにオペラ全幕を歌うと喉を酷使しますが、正しい発声を行っている人は、いくつになっても喉を壊さず、歌い続けることが出来ます。私は90歳を超えたイタリア人の歌手のコンサートにお誘いいただいたことがありますが、その歌声は実に素晴らしいものでした。

 

他にも、私の師であるイタリア人のある先生は、80歳を超えていますが、初めて彼女の歌声を、ミラノのレッスン室で聞いたときは、それまで聞いたあらゆる楽器、歌声の中で最も美しい音色だと感じたことを鮮明に覚えています。

とはいえプロであれ正しくない歌い方を続けてしまうと、次第に喉が壊れてしまい、その歌声を治すことも出来ず、正しいベル・カントを一生歌えなくなってしまうのです。